街〜運命の交差点〜

review: 街〜運命の交差点〜物語を用いたパズル[プレイステーション]


  • タイトル / 街 〜運命の交差点〜
  • プラットフォーム / プレイステーション(オリジナルはセガサターン版)
  • 発売日 / 1999.1/28(1998.1.22 セガサターン)
  • 発売元 / チュンソフト
  • 開発元 / チュンソフト
  • プロデューサー / 中村光一, 小久保利己
  • ディレクター / 麻野一哉, 山﨑修, 平松正樹, 近藤英明, 毛利昌樹, 落合信也
  • シナリオ / 長坂秀佳, 山﨑修, 岩片烈, 平松正樹, 横山至
  • ジャンル / サウンドノベル, ビジュアルノベル, アドベンチャー

Overview

チュンソフトによる弟切草(1992/チュンソフト/スーパーファミコン)から始まるアドベンチャー作品【サウンドノベルシリーズ】の第3弾作品。

街〜運命の交差点〜
街〜運命の交差点〜(プレイステーション版)(1999/チュンソフト/プレイステーション)

プラットフォームが16bit カートリッジROM(スーパーファミコン)世代から、32bit CD-ROM(セガサターン)世代になった。ROM容量が増えたことで、ビジュアルは実写取り込み写真を採用している。

オリジナルはセガサターンで1998年に発売されたサウンドノベル 街 -machi-(1998/チュンソフト/セガサターン)で、サターン版はその昔一通り楽しんでプレイした。今回のプレイステーション版には、オリジナルからいくつかの機能が追加され1年後に発売された。先日たまたまプレイステーション版を見かけ、うろ覚えで【シルエットモード】があるのを思い出し試して見たくなり手に取った。ちなみにPSP版もいつだったかNORMALモードで途中までプレイしたが、それなりに進めたところで【HARDモードでなければ追加シナリオが出現しない】ということを思い出したことでやめてしまったことも、ついでに思い出した。

「やるならなるべくオリジナル版を」と考えているが、本作は一度オリジナル版をプレイしたことがあることと、シルエットモードを試して見たかったというのが今回のプレイ動機のため、プレイステーション版でのreviewとなっている。

サウンドノベルシリーズではあるものの、これまで出た弟切草かまいたちの夜(1994/チュンソフト/スーパーファミコン)とはシステムが大きく異なる。

弟切草
弟切草(1992/チュンソフト/スーパーファミコン)
かまいたちの夜
かまいたちの夜(1994/チュンソフト/スーパーファミコン)

街以前と以降で異なるサウンドノベル

【サウンドノベル】は、本作を制作したチュンソフトが産んだジャンルである。英語圏では【ビジュアルノベル】としてまとめられることも多い。

主に文章を読んで物語を進めるアドベンチャーゲームの総称である。

サウンドノベルの前段ジャンルとして、システムサコムが【ノベルウェア】というジャンル名でDOME(1988/システムサコム/PC)をはじめとした作品群を発売している。

ゲームブックを色々調べていると、興味はゲームブックの発展形とでもいうべき「ノベルゲーム」へと拡大していったのですが、その歴史を調べているうちに、忘れられている存在、システムサコムの「ノベルウェア」へとたどり着くことになりました。

【デジタルゲーム】ノベルゲームのさきがけになれなかったノベルウェア(システムサコム)について語りたい – セントラル・ステーション分室

現在DOMEは【Project EGG】という、オールドスクールPCゲームをプレイアブルでアーカイブするサービスにてプレイ可能になっている。

 パソコンで読む小説・ノベルウェアとして登場しました。  いわゆるゲームブックに近い作りで、夏樹静子氏原作、故・多摩豊氏シナリオの近未来SFを楽しむことができます。

ドーム | プロジェクトEGG | レトロゲーム配信サイト

グラフィックスはスーパーファミコンよりさらに荒いが、実写グラフィックを用い登場人物をウインドウをごとに分けて表示する会話劇となっている。ストーリー中の選択肢と、日ごとに利用できる機能を使って結末まで導いて行く。ゲームブックを元にしていことから、文字を読むことを主体にはしつつも、この時点では結果的なアウトプット自体はいわゆるアドベンチャーゲームと変わりはない。弟切草から始まったサウンドノベルのひとつの特徴は【ひとつの結末を経るたびに、同一の登場人物や場所を利用して異なる物語が展開される】点である。また、エンディング(周辺)のみが変化する【マルチエンディング】なだけでなく、シナリオ自体が変化する【マルチシナリオ】となっている。

遊ぶたびに違った体験があり、繰り返しプレイすることを前提とした作りだ。長らくAVGがとらわれていた、一度クリアすればおしまいの”短命の呪い”を打ち破ったのだ

ゲームサイド編集部【アドベンチャーゲームサイド Vol.1】P.6

ひとつのシナリオを読み終えるたびにその後のシナリオが変化するため、1本道のアドベンチャーゲーム作品よりプレイ時間は長くはなる。読み切れば終わりであることに変わりはないが、グラフィックやサウンドを流用しシナリオだけを変化させることで、データ容量に制限があった当時のゲーム機としてはアドベンチャーゲームのボリュームを上げる大きなアイデアだった。グラフィックスとテキストでは、グラフィックスの容量のほうがはるかに大きいためだ。結果として、シナリオ制作の負担が大きくなったのは想像に難くないが。

そしてサウンドノベル作品は、弟切草以降他社からも多く登場し、ひとつのジャンルとして定着した。

弟切草から発売周辺までに発売されたサウンドノベル作品は以下

  • 弟切草(1992/チュンソフト/スーパファミコン)
  • かまいたちの夜(1994/チュンソフト/スーパーファミコン)
  • 夜光虫(1995/アテナ/スーパーファミコン)
  • 学校であった怖い話(1995/バンプレスト/スーパーファミコン)
  • 魔女たちの眠り(1995/パックインビデオ/スーパーファミコン)
  • 月面のアヌビス(1995/イマジニア/スーパーファミコン)
  • ざくろの味(1995/イマジニア/スーパーファミコン)
  • (1996/リーフ/PC)
  • 晦-つきこもり(1996/バンプレスト/スーパーファミコン)
  • リングオブサイアス(1996/アテナ/プレイステーション)
  • 犯行写真 縛られた少女たちの見たモノは?(1996/イマジニア/セガサターン)
  • サウンドノベルツクール(1996/アスキー/スーパーファミコン)
  • 学校であった怖い話S(1996/バンプレスト/プレイステーション)
  • 痕[きずあと](1996/リーフ/PC)
  • 黒ノ十三(1996/トンキンハウス/プレイステーション)
  • ゲゲゲの鬼太郎 幻冬怪奇譚(1996/バンプレスト/セガサターン)
  • あかずの間(1997/ヴィジット/プレイステーション)
  • To Heart (1997/リーフ/PC)
  • 信長秘録/下天の夢(1997/アテナ/プレイステーション)
  • 古伝降霊術 百物語〜ほんとにあった怖い話〜(1997/ハドソン/セガサターン)
  • サウンドノベル 街 -machi-(1998/チュンソフト/セガサターン)
  • 最終列車(1998/ヴィジット/プレイステーション)
  • 夜想曲(1998/パックインソフト/プレイステーション)

「街」スペシャルガイド サウンドノベルシナリオ入門より

塩田信之&CB’s Project編著【「街」スペシャルガイド サウンドノベルシナリオ入門】 P.125

さらに【★】で追加した、サウンドノベルツクールというサウンドノベル制作ソフトもスーパーファミコン・プレイステーション・セガサターンで発売された。

また、上記に挙げられた作品の中で、リーフから発売されているなどの作品は日本では【ビジュアルノベル】と呼ばれることが多い。この場合、キャラクター性が高いサウンドノベルのようなアドベンチャー作品を指し、英語圏で言うビジュアルノベルとは若干ジャンルとしての範囲が異なる。

1996年、Leafの『雫』によって「ビジュアルノベル」という名称が生まれましたが、翌年には他社であるタクティクスの『MOON.』の企画書に、「ヴィジュアルノベル(※原文ママ)」という言葉が使われており、当時の業界で早くもこの名称が広まっていることが伺えます。

ビジュアルノベルはいつ成立し、そして現在に至るのか? ストーリーゲーム研究家・福山幸司氏が解説する歴史 | GameBusiness.jp

そのようなサウンドノベルシリーズとして登場しただが、それまでの他社作を含めたサウンドノベルの同一線上にあるわけではない。画像で状況を見せ、文字を主体に進めていく点までは同様。ただしマルチシナリオの部分は大きく変化した。

物語によるパズル体験

街〜運命の交差点〜
プレイアブルな8人の主人公

というサウンドノベルではシナリオの時間軸は1つで、スタートからエンドまでの一本道である。そして読み終わるたびに新たなシナリオが解放されるわけではない。その代わりに、スタート時点で選択可能なシナリオが8つ存在する。マルチシナリオをひっくり返したような、スタート時点でシナリオが分岐した状態になっている。【マルチエンディング】ならぬ、【マルチビギニング】である。

8つのシナリオはどれから始めても構わない。そこで1つのシナリオを選択し読み始めるとすぐに進行不能に出会う。

3種の進行不能

シナリオは当初からバッドエンド(進行不能状態)が組み込まれている。

進行不能の状態は3種類。

1.プレイ中のシナリオで選択肢を間違えた場合
2.「つづく」と表示されプレイ中のシナリオが強制的に停止され、他シナリオを読み進めてそこからジャンプすることで続きが進められる場合
3.他シナリオでの選択による影響を受けている場合

プレイを始めた時点で、これらが絡まった状態になっている。

1.のプレイ中の選択肢の誤りは、直接的な影響なのでわかりやすい。

これまでのアドベンチャーゲームと同様だ。

2.の「つづく」からの再開は、他シナリオをプレイしていれば、【Zapping(ザッピング)】や【TIP(ティップス)】など入り口は違えど自ずと出現する。

Zappingとは、

テレビ視聴において、リモコンでチャンネルを頻繁に切り替えながら視聴する行為のことである。

ザッピング – Wikipedia
街〜運命の交差点〜
Zapping

その昔、複数のテレビ局の協業で【ザッピングTV】といった、【1つの作品を別のカメラで捉え同じ時間に複数のチャンネルで放送する】という実験をしていたのを見た記憶がうっすらとある。それまで見ていたテレビのチャンネルを変えると、同じストーリーが別の視点で進行しているというものだ。

「街」スペシャルガイドに記述があった。

(*5)ZAPPING TV「殺意」
1993年2月18日および19日、フジテレビとTBSで放送されたドラマ。
〜中略〜
ザッピングという言葉が一般に知られたきっかけだが、同様の手法のドラマはほとんど作られていない。

塩田信之&CB’s Project編著【「街」スペシャルガイド サウンドノベルシナリオ入門】 P.125

ZAPPING TV「殺意」(1993/フジテレビ)が1993年放送で、が1998年とだいぶ間がある。ザッピングという単語がある程度認知されている頃の作品かと思っていたが、ザッピング形式のTV番組がほとんど作られていないことを考えると、単にゲーム作品の機能名として認知されていただけかもしれない。

加えてTIPは、文章内に組み込まれている単語の意味を確認できる辞書のようなもの。

街〜運命の交差点〜
TIPS内のジャンプリンク

その開いた辞書の中にも、他シナリオへのジャンプリンクが存在している。これにより「つづく」で進行停止していた他のシナリオが解放される。

そして、ポイントは3の【他シナリオでの選択による影響を受けている場合】にある。

【プレイ中のシナリオの進行不能を解くため】に、【他シナリオでの選択肢を変更する】必要があるのだ。序盤は、すぐに原因となっているシナリオの選択肢に気づけるようチュートリアルとしてデザインされている。しかし、プレイを進めるに従い徐々にレベル難度は上がってゆく。後半では「こんな選択が原因か」といったものに至り、まさにバタフライエフェクトを絵に書いたような構造を体験できる。

3が複雑化することにより、1、2のあてのつけやすかった進行不能にまで影響が及んでくる。中盤以降になると、1つの進行不能の原因が複数のシナリオをまたいだ選択によってでしか解決できないものまで出てくる。複数のシナリオを行き来し、すべてのシナリオが正しく進行できるよう選択を整理していく。その絡まりを一つずつほどいていく過程や、正常化された物語が歩みを始めた時に得られる快感は、まさにパズルゲームそのものだ。

ストーリー主体のアドベンチャー作品には違いないが、それがパズルに近い感覚をもたらすというのは、非常にユニークな体験だ。

プレイステーション版とシルエットモード

今回プレイしたのはプレイステーション版で、セガサターン版からの移植作品である。

プレイステーション版ではかまいたちの夜のように、登場キャラクターをシルエットにして、プレーヤーに想像の余地を与えたモードが追加された。

街〜運命の交差点〜
通常モード(左)とシルエットモード(右)

個人の記憶でしかないが、プレーヤーに【実写を用いたゲームへの拒否感】がそれなりにあったことと、プレーヤー側の【かまいたちの夜の演出での成功体験】があったからであったように思う。それが直接の要因かどうかはわからないが、膨大な作業を費やしてシルエットモードはプレイステーション移植版に搭載された。約6,000枚もの画像を手作業でシルエット化している。

中村光一「手作業ですよ」

GameWave (ゲームウェーブ) 1999年01月06日 – YouTube

プレイステーション版の楽しみとして当初こちらでプレイを始めた。しかし、早々に通常モードに戻してしまった。理由は単純で、【シルエットで多数の登場人物を把握するのが難しかったから】だ。はもともと「100人構想」と銘打ち、100人の登場人物の交差を描こうとした作品である。

画面は全て実写で使用総数6,000枚以上、出演者は約400人にわたり、“主人公100人構想”という壮大なプロジェクトの一環として、1997年に2月に行なわれた発表会にて本作はお目見えした。

【特別企画】発売20周年なので、「サウンドノベル 街」をどこよりもディープに振り返ってみる – GAME Watch

最終的に8人のプレイアプルシナリオに絞られてはいるが、各シナリオ中にはプレイアブルとならなかった人物が多数登場する。その中には、【ドラマCD】として発売されたものや【他機種への移植時におまけシナリオとして追加されたもの】、さらには透明少女エア(1998/テレビ朝日)というテレビドラマで展開されたものもある。

PSP版は,PS版をベースにしつつ,秘蔵シナリオとして「サギ山篇」と「パトリック・ダンディ篇」が実装。

「サウンドノベル 街 -machi-」とはいかなる作品だったのか。20周年を迎えた今,その魅力を語りたい

サウンドノベル『街 〜運命の交差点〜』内で「透明な少女」に関する言及がいくつかある。

透明少女エア – Wikipedia
透明少女エア
透明少女エア(1998/テレビ朝日)

いちおうプレイステーション版では挑戦してみましたが、やっぱり無理があったねっていう(笑)。やはり実写の良さというのが逆にわかったかなと思うんですよね。

セガ、PSP「街 ~運命の交差点~ 特別篇」チュンソフト、中村光一氏が語る「街」そして新作「かまいたちの夜×3

「やっぱり無理があったね」と話しているところから、もとよりわかっていながら膨大なコストをかけて実証することで、実写で展開するの意義を示すチュンソフトも凄まじい。

さらに加えると、過去に本作をプレイした記憶が持つ「もったいないな」という感覚。セガサターンでのプレイ時に楽しんだ実写による様々な演技の多くが損なわれてしまい、楽しみが半減しているように感じたのだ。そして上記の中村氏による発言どおりなのかどうなのか、その後発売されたPSP版街 ~運命の交差点~ 特別篇(2006/チュンソフト/PSP)では、シルエットモードは削除された。

そして移動マップ

このように、プレイステーション版を試そうと思ったきっかけである【シルエットモード】は、意外とあっけなく消えていったが、プレイステーション版で実装されたもう一つの機能に【移動マップ】がある。行き来が必要な各物語の進行が【常にアクセス可能な移動マップ】として実装されている。

街〜運命の交差点〜
移動マップ

この移動マップを使って【あのシナリオのあのタイミング】にすぐに切り替えることができる。このシステムは以降の移植作品および、チュンソフトによる系サウンドノベルである次作の428 〜封鎖された渋谷で〜でも受け継がれているように、パズルを解くのに非常に便利な機能になっている。もはやこの機能がなければ、どうシナリオを行き来していいのかわからないくらいだ。ひるがえって考えると、セガサターン版では(しおりという機能はあったが)【移動マップ】存在しない中、当時よく追加シナリオまで含めてプレイしたものだと感慨深いものがある。

マルチサイトアドベンチャー

アドベンチャーゲームの成り立ちの中で、飛躍のひとつとして【マルチサイト】という機構がある。複数の視点で物語が語られるシステムである。

「高みにありすぎた異才」も忘れてはならない。90年代には「剣乃ゆきひろ」の別名で活躍していた故・菅野ひろゆき氏だ。シーズウェア時代の『DESIRE -背徳の螺旋-』(94年)では、マルチサイトシステムを採用。いくつかの視点(マルチサイト)から物語を追う手法は『新・鬼ヶ島』や『探偵 神宮寺三郎』にもあり、菅野氏の発明というわけではない。が、キャラクターの役割以上に主観を伴う”視点”に重きを置くことで心情を掘り下げ、ストーリーを深めていた。

ゲームサイド編集部【アドベンチャーゲームサイド Vol.1】P.8

ひとつの視点(ルート)では知ることができなかった情報が別の分岐で明らかにされ、世界の全貌が次第に浮かび上がってくる構成の妙は、後のビジュアルノベルなどにバトンが渡されている。最も濃厚に志を継ぐ代表は『Ever17 -the out of infinity』など『infinity』シリーズ(00年〜)だろう。

ゲームサイド編集部【アドベンチャーゲームサイド Vol.1】P.8

マルチサイトを使用した作品

  • DESIRE 背徳の螺旋(1994/ シーズウェア/PC)
  • EVE burst error(1995/シーズウェア/PC)
  • サウンドノベル 街 -machi-(1998/チュンソフト/セガサターン)
  • エクソダスギルティ(1998/Abei/プレイステーション)
  • バイオハザード2(1998/カプコン/プレイステーション)
  • Ever17 -the out of infinity-(2002/KID/プレイステーション2,ドリームキャスト)
  • 428 〜封鎖された渋谷で〜(2008/チュンソフト/Wii)
  • オーディンスフィア(2007/ヴァニラウェア, アトラス/プレイステーション2)
  • タイムトラベラーズ(2012/レベルファイブ/3DS, PS Vita)
  • ルートダブル -Before Crime * After Days-(2012/レジスタ/Xbox360)
  • SIREN(2003/SCEジャパンスタジオ/プレイステーション2)

での複数の視点によるシナリオ進行は、文字通りマルチサイトと言える。

この手法は『EVE burst error』(95年)にも継承され、男主人公で行き詰まったら女主人公に切り替えてハマリを打破するゲームの面白さにもつながっている。

ゲームサイド編集部【アドベンチャーゲームサイド Vol.1】P.8

この考え方はまさにの構造と同様だ。しかし、他の作品でのマルチサイトシステムの価値とは大きく異なる。

Ever17 -the out of infinity-

Ever17 -the out of infinity-
Ever17 -the out of infinity-(2002/KID/プレイステーション2,ドリームキャスト)

マルチサイトを用いている評価の高いビジュアルノベル作品。

からの影響作ということでプレイしてみたが、プレイ中の選択肢がかなり少ないため、冒頭プレイだけでは把握できず、ある程度の時間プレイした。本作では1つのシナリオを完了するだけでは、物語の全容は把握できない。別の視点のシナリオを経ることで、物語の全容が立体的に見えてくる構造だ。最初にプレイした際の物語の謎が伏線となり、他視点でのシナリオでそれらが回収されていくことでカタルシスを感じられる。上に挙げたDESIREEVE burst errorなども他の方のレビューを見る限り同様のようだ。

では、同じマルチサイトの作品であるではどうだろうか。各シナリオごとに視点を行き来しつつも、各物語で目指すゴールは異なる。プレイステーション版で付加された「運命の交差点」というサブタイトルが的確に表すように、各シナリオがその時々に衝突して干渉することにマルチサイトが用いられている。

脚本を担当した長坂秀佳が渋谷にある電話ボックスで電話をしていたところ、「早く出ろ」とドアを叩く者がおり、不快感を覚えたという。しかし同時に、「そいつにとっての俺は、電話を占領してるただのオヤジであって、脇役に過ぎないんじゃないか…と思ったんだ。逆に、俺の視点でのそいつは、やけにうるさいヤツだ、と感じるだけの脇役になっている。同じ状況でもそれぞれのドラマがあるんだ」と感じたと語っている

街 〜運命の交差点〜 – Wikipedia

衝突している出来事の絡みをほどくために随時視点を変えながら進行する。ここでのマルチサイトは【大きな謎を含んだ中心となる物語】の全容を明らかにするために存在するわけではない。マルチサイト作品としてまとめる場合、この点はひとつ大きな違いになるだろう。現状マルチサイトアドベンチャー作品を探っている限りでは、のタイプは少数派である。

ザッピングもAVGの本流となるには複雑すぎるため、純粋な後継ゲームと言えるのは同社の『428 〜封鎖された渋谷で〜』(08年)のみ。

ゲームサイド編集部【アドベンチャーゲームサイド Vol.1】P.8

428 〜封鎖された渋谷で〜

428 〜封鎖された渋谷で〜
428 〜封鎖された渋谷で〜(2008/チュンソフト/Wii)

428〜封鎖された渋谷で〜(2008/チュンソフト/Wii)は基本的にはと同様のシステムで、プレイステーション版で搭載された【移動マップ】も【タイムチャート】として受け継がれている。

では5日間を1日ごとに区切ったシナリオで展開されたが、428では1時間ごとで区切り全体で1日分のストーリーとして描かれている。TVドラマ24 -TWENTY FOUR-(2001/Imagine Entertainment・FOX)が2004年に日本で放送されたが、この作品が428のアイデアのひとつだったようだ。本作のプレイアブルな6キャラクターは基本的にほとんどが関係者であり、物語は1つの結末に向けて集約される。この点で【別の視点のシナリオを経ることで、物語の全容が立体的に見えてくる】という他のマルチサイト作品の要素が見られる。ただし周回プレイで見えてくるわけではなく、あくまで各シナリオは同時進行で進めるので、の印象を強く残した地続きの作品である。

SIREN

SIREN(2003/SCEジャパンスタジオ/プレイステーション2)

 『SIREN』もそうですね。『街』から影響を受けているというのを、ディレクターの外山(圭一郎)さんとの対談で聞いたことがあります。

名作アドベンチャーゲームの構造はこうなっている──『428』イシイジロウ氏によるアドベンチャーゲーム制作のヒント解説 “ニコニコ自作ゲームフェスMV作~る放送”第一回

SIREN(2003/SCEジャパンスタジオ/プレイステーション2)は3人称視点のアクションアドベンチャー。

見た目は全く異なるが【移動マップ】のような【Link Navigator】の存在など、に近い感触はあった。ただプレイ時間が少ない。また、グラフィックスも特徴的なので、プレイ後改めて見直してみることにする。

参照