- タイトル / DOUBLE-S.T.E.A.L(ダブルスティール)
- Title / Wreckless: The Yakuza Missions
- プラットフォーム / Xbox (Original)
- 発売日 / 2005.3.13
- 発売 / ぶんか社
- 開発 / BUNKASHA GAMES
- 制作総指揮・チーフプログラマー / 永谷真澄
- CGプログラム / 川瀬正樹
- 音楽 / soyuz project (福間創 + 山口慎一)
- ジャンル / アクション
Overview
2つのシナリオを通じて、車で様々なタスクをこなしていく。グラフィックスの雰囲気から日本のゲーム会社製ではないだろうと思っていたのだけれど、【ぶんか社ゲームズ】という日本の会社製であった。ビデオゲーム事情に詳しい訳ではないのだが、ぶんか社とゲームがすぐに結びつかなかった。
車によるアクション
【ドライビングアクションゲーム】に違いないのだが、【人型キャラクターがするようなアクションを車にさせる】と言ったほうが印象として近い。ターゲット車に体当たりして破壊するというドライビングアクションらしい序盤のタスクを越えれば、【ビルを駆け上がって】【高所を飛び移り】【細い道を慎重に進む】など、およそ車でするとは思えないようなタスクが次々と出てくる。加えて、広いマップのクリア方法は1つではない場合もある。シビアな制限時間を気にしつつ、クリアルートの探索も必要である。
うまくいかないイライラや、成功時の達成感は人型キャラクターのアクションゲームそのものである。「車でスーパーマリオ64をやってみた」という感じだろうか。車は海に落ちればゲームオーバーだが、いくら破損しても走行性能に変化はないため思い切りぶつけて破壊して走り回れる。さらにプレイ中盤まで気づかなかったが、各タスクで別々だと思っていたフィールドは、実際は1つの地続きの町を使ったいわゆるオープンワールドであった。タスクの目的を無視すれば、車で走れる場所ならどこへでも行ける。ただし時間制限があるため、一定時間に限られてはしまうが。
その特徴的なグラフィックス
ゲーム自体を楽しんだため後回しになってしまったが、本作に注目したのはゲーム内容ではなくグラフィックスである。オープニングのリプレイ映像を見ているだけで目を奪われたその特徴的なグラフィックス。このグラフィックエンジンを開発したのが、エンドロールにてCGプログラマーとして名が出る川瀬正樹氏だ。
日本のゲーム開発シーンではまだ「プログラマブルシェーダーとはなんぞや?」という発展途上の段階だったのだが、川瀬氏はこの時から世界に向けて情報を発信していたのだ
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“KAWASE式”のあの人が手がける「ポストエフェクト・ミドルウェア」の神髄に迫る!
近年は、色彩工学やHDRレンダリング、レンズで起こるさまざまな光学効果のリアルタイムシミュレーションを主な研究のテーマとしている。
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作品の舞台は、昼間はススけながら怪しく、夜はどギツいネオンが目に刺さる香港。その光が多数の車やビルの窓に反射して照り返される。それらがこれまで見たことのない、リアルさを感じさせながらも異質なものとして映った。
実際,水面の反射であるとか,車のボンネットであるとか,フロントガラスに映った光源って,見れば分かるんですけど,もの凄くまぶしいんですよね。しかし,CGだと当たり前のようにそういったものがクランプされています。そういうのにすごく違和感があって,いずれ,こうピカッと眩しく光るようなものを作りたいと思っていました。
CEDEC事前インタビュー:実は理論より見た目? 世界的レンダリスト川瀬氏が目指す光学処理とは – 4Gamer.net
プレイ時の陰影や反射が独特なグラフィックスに加え、リプレイ時はフォーカスやブレを模したカメラワークがそこに加わる。このリプレイも妙なリアルさがあった。
リプレイを綺麗に見せようとして,結果的にリプレイのカメラ処理に行き着いたわけです。その辺りからですね。
CEDEC事前インタビュー:実は理論より見た目? 世界的レンダリスト川瀬氏が目指す光学処理とは – 4Gamer.net
リプレイをいかに「よく」見せるか,リプレイ時にリアルなカメラとか,自然に見えるカメラとか,それっぽいカメラ画像を流したいという思いがあったんですよ。
これらの映像表現を可能にしたのが、家庭用ゲーム機としては初めてXboxで採用された、プログラマブルシェーダーアーキテクチャある。プログラマブルシェーダーというのは、オブジェクト表面の陰影などの処理をGPU上でリアルタイムにコントロールできるようにする技術のようだ。
DirectX 8発表から約1年後の2001年末には、DirectX 8ベースのゲーム機、初代Xboxがマイクロソフトより発売される。あまりこの点が取り沙汰されることはないが、Xboxは世界初のプログラマブルシェーダアーキテクチャを採用した家庭用ゲーム機となった。
3Dグラフィックス・マニアックス(3) GPUとシェーダ技術の基礎知識(3) | マイナビニュース
ちょうどプログラマブルシェーダが出てきて,擬似的ではあっても,ある程度そういうことができる時代にようやくなったんですよね。そのタイミングもあって,その時点で詰め込めるものは詰め込んだ感じはありました。2次反射がちゃんと眩しく光るとか,反射したものにグレアが出るとか。それまでにも太陽見たときに,視界が霞んでくるとか,ゴースト(光源とは別の光が形になって出たもの)的なものが出るレンズフレアっていうのはいくらでもあったんですが,間接光が光るっていうのはまったくありませんでした。もともとそういうのを凄くやりたかったので,全部入れてやれと。
CEDEC事前インタビュー:実は理論より見た目? 世界的レンダリスト川瀬氏が目指す光学処理とは – 4Gamer.net
さらに驚くのが、DOUBLE-S.T.E.A.LはXboxのローンチ(ゲーム機の発売と同時に発売された)作品であることだ。まさにXboxならではの映像表現を、Xbox同時発売のタイミングでこのクオリティで仕上げていた。ドライビングゲームには珍しく夜のステージが多いのも、光の効果に合うステージとして用意したからではないだろうか。夜のネオンの眩しすぎる光や水面に落ちて反射する光など、どれをとってもとても美しい。
そして、ぶんか社発売であることと共に、このグラフィックスクォリティは発表当時から驚きをもって受け入れられたようだ。
4Gamer:当時は,いきなりよく分からないところ(失礼。ぶんか社より発売)からよく分からないものが出て,発表会でマイクロソフトさんが妙に押してて,見るとなんか「すげーぞ」って感じでした(笑)。
CEDEC事前インタビュー:実は理論より見た目? 世界的レンダリスト川瀬氏が目指す光学処理とは – 4Gamer.net
川瀬氏:当時はそういう感じだったと思います(笑)。
4Gamer:あれは非常に衝撃的でしたね。当時のNVIDIAの人も,なんで動いているのかよく分からないと言っていました。
川瀬氏:まぁやっぱり工夫とか,結構いろいろやってました。当時から被写界深度とか,エフェクトとしてのグレア処理とかも入れていて,やっぱりXboxだと真面目にやってしまうとどうしても動かなくなりますので,そのへんは最適化と,いかに実用的に作るかというので苦労した記憶がありますね。
そこで、その他の日本でのXboxローンチタイトルおよびローンチから1ヶ月以内に発売されたタイトルを調べてみた。
2002.2.22
- エアフォースデルタ2(2002/コナミ/XBOX)
- ジェットセットラジオフューチャー(2002/セガ/XBOX)
- デッドオアアライブ3(2002/テクモ/XBOX)
- 天空-Tenku- Freestyle SnowBoarding(2001/Microsoft/XBOX)
- プロジェクトゴッサム ワールドストリートレーサー(2002/Microsoft/XBOX)
- ねずみくす(2002/Microsoft/XBOX)
2002.2.28
- 斬 歌舞伎(2002/Genki/XBOX)
- メタルダンジョン(2002/パンサーソフトウェア/XBOX)
2002.3.21
- ガンヴァルキリー(2002/セガ/XBOX)
(他機種からの移植作品は省いた)
各作のプレイ時間はわずかであることは断っておく。どれもキレイなグラフィックスではあるのだけれど、衝撃を覚えるほどのものはなかった。唯一ねずみくすの毛の表現がこれまでのコンソールではできなかったであろうというくらいだった。
DOUBLE-S.T.E.A.Lのリプレイを延々と眺めているだけで本作の体験として十分な満足度が得られるのは、タスクをこなした達成感を考慮する必要がないほどに魅力的なグラフィックスゆえである。
関連作品
スーパーランナバウト
- タイトル / スーパーランナバウト
- Title / Super Runabout
- プラットフォーム / Dreamcast
- 発売日 / 2000.5.25
- 発売 / セガ
- 開発 / クライマックス
- ジャンル / ドライブアクション
DOUBLE-S.T.E.A.Lを調べている途中で、スーパーランナバウト(2000/セガ/ドリームキャスト)という作品の紹介内で持ち出されているのを目にした。
本作を開発したスタッフは、その後BUNKASHA GAMESに移動し、Xbox版『ダブルスティール』シリーズを開発した。
ランナバウト (ゲーム) – Wikipedia
ランナバウト(ゲーム)シリーズ大紹介 ( ゲーム ) – 僕の日記・ブログ – Yahoo!ブログ
どこかでスーパーランナバウトのチームが移籍して制作されたと見た記憶があるがわからなくなってしまった。実際にプレイしてみたところ、車による破壊破損は元より、2つのシナリオで展開するミッションクリア型のシステム、シビアなタイム設定はDOUBLE-S.T.E.A.Lとほぼ同じなので、スタッフが同様というのもうなずける。
ただ、ひとつ大きな違いは【車の破損が走行性能に影響を与えるか否か】である。スーパーランナバウトは車が破損しすぎるとゲームーバーになるのに対し、DOUBLE-S.T.E.A.Lは見た目こそ破損するものの走行性能は変わらない。これはプレイ時にも気づいて書いたことではあるのだけれど、実際に両者を比べるとゲームとしてこの違いはかなり大きい。フィールド内の【あらゆるものが破壊できる】ことと、【車の破損による走行性能の低下】はとても相性が悪い。破壊の爽快感に比例して走行性能は低下してゆく。走行性能の悪化は演出としてフィードバックされ、車は段々と変形し煙を吐き、まっすぐ走ることも困難になり、結果的にゲームオーバーに向かって爽快感は延々と下降し続ける。それは【リアル】であることの証左でもあるが、なんでもかんでも破壊して走行できるというシステムと相入れづらい。
人型アクションでも、ダメージを受けることで行動が制限されることはある。しかしその場合、大抵その後に体力を回復するチャンスが設けられていることが多い。車の場合はリアリティの問題なのか、プレイ中に破損を修復する手立てがないことが多いように感じる。DOUBLE-S.T.E.A.Lはこの点を無視することで、格段に楽しんで走ることができるようになっている。些細な違いが大きな価値を生むのだと気付かされた。
参考
- [CEDEC 2007]写真光学技術を取り込んだレンダリングについて – 4Gamer.net
- 魅力的なグラフィクスのために心に留めておくべきこと | ゲームクリエイターが知るべき97のこと
- CEDEC 2007 Imagire Day 最新世代機に関わる技術トラック